2007年6月8日金曜日

ロングテールはマーケティングをどう変えるか?

ロングテールはマーケティングをどう変えるか?

ロングテールとは何か?

ロングテールとは従来のように売り上げが集中した市場(売り上げ分布の頭の部分)ではなく、個々の売り上げは小さいが広範囲に分散する市場をターゲットとした、新たなビジネスモデルの提案である。製品を横軸に、売り上げ個数を縦軸にしたグラフを書いたときこのグラフは右に非常に長く続くことになる。この非常に長く続く製品群をターゲットとしたものがロングテールビジネスである。ちりも積もればなんとやらである。例えばAmazonはロングテール部分に当たる売り上げが13万以下の順位の製品から全体のほぼ3分の1の利益を得ていると聞いたことがある。もちろんこれはインターネット上だから実現可能であることであり店舗を持つ実世界では扱いようのないことである。今まで売り上げに貢献しなかったような製品を取り扱えるようになったという点でロングテールは画期的である。ロングテールの代表例としてのもう一つ典型例はグーグルの検索連動広告である。GoogleAdwardsは今まで広告なんて出せなかったような小さな店などに対して広告を出すことの敷居を限りなくさげ、またAdsenseにより一般の個人までもが広告により収入を得られるようになった。これはロングテールのテール部の広告主とテール部の広告掲載主である個人をうまいこと狙ったビジネスモデルであるといえる。

ロングテールの前提を問う

ロングテールを確率統計的モデルとして捕らえたときどのような確率分布に従うかという問題があるが、今までの研究はほとんどリアルワールドで行われている購買行為を対象としているため、それをネットの世界にも適用するのは適切ではない。リアルワールドではすでに扱える製品の種類に限りがあるため既にテール部が切り捨てられているからである。テールの先にどのような需要が隠れているのか、それはどのような確率モデルに従うのかは今解明されつつある。

顧客側のロングテール

ロングテールのビジネスモデルが成り立つには、供給側の条件としては対品種少量生産とその流通管理が低コストで実現することが絶対的に必要である。いうまでもなくそれが実現しやすいのはソフトウェアや音楽、映像のような、完全にディジタル化された製品である。しかしこれはどちらかというと、生産流通面だけに注目した議論であり、マーケティング面の条件についても考える必要がある。それは、顧客別の需要の分布はどうなっているかという問題である。そこでマーケターは近年、パレート図を製品単位だけでなく、顧客単位に作るようになってきた、すなわち、製品を単位とした場合と同様、顧客ごとの売り上げを計算し、顧客を左から右へとその順に並べ、そうして描かれた顧客のパレート図から例えば上位20%の顧客が全売り上げの何パーセントをもたらしているかが読み取れる。これは近年のデータベースシステムの発展により最近になって可能になってきたのである。これによるとやはり製品と同様顧客についても製品と同様のべき乗分布、すなわち一部の優良顧客が売り上げのほとんどを占めているということになる。しかしこのような顧客ほど経験が豊富になりテール部の製品を買うのではないかという仮説があり、これが正しいとするとテール部分の製品を扱うインセンティブは高くなる。マーケティングや消費者行動の研究で、時間や経験によって消費者選考の多様性がどう変化するかはさほど研究されてこなかった。今後、実際のデータを用いてこれらの論点が掘り下げられることを期待したい。

無数の選択肢からの選択問題

ロングテールのビジネスのもとでは、マーケティングリサーチのあり方が大きく変わるかもしれない、極論すれば、需要予測は不要になる可能性がある。なぜなら、ロングテール論が主張するように個々の製品の追加的な生産費用や在庫費用が限りなく小さいなら、それらの製品は発注があり次第すぐに生産するか在庫から出荷すればよく、その需要を事前に把握する必要がないからである。しかしミクロな需要予測に用いられる消費者選択問題は依然として必要になる。消費者選択モデルとは、有限個の選択肢から、どの選択肢が選択されるかを予測する手法である。売れそうな製品をレコメンデーションできれば売り上げは高くなるはずである。推薦モデルとしては協調フィルタリングを用いることが考えられており、すでに実用化も進んでいる。しかし協調フィルタリングには製品別分布のテール部分のように過去の購買者が少ない製品については情報不足し、信頼性のある推奨をするのが難しいということである。無数に近いニッチ製品の推奨をどう行うかは、今後に残された大きな課題である。

最後に

ロングテールのビジネスモデルが広がると、マーケティングやマーケティング・リサーチのあり方は大きく変容を迫られるのは間違いない。本稿は、それにかかわる論点の本の一部しか言及していない。例えば、ブランド、製品開発、価格設定、プロモーション、流通、といったマーケティングの幅広い領域にロングテールのビジネスモデルがどのような影響を与えるかについて、より幅広く、かつ奥深い議論が今後起きるであろうし、そうなることを期待したい。

参考 IPSJ Magazine Vol47 No.11 Nov.2006

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