2007年6月4日月曜日

SNSの現在の展望

はじめに
Web上で利用者が急増しているのがmixiをはじめとしたソーシャルネットワーキングサービス(SNS)である。SNSでは、参加者がそれぞれに固有のページを持ち、他の参加者と相互にリンクすることで小規模コミュニティを形成する。コミュニケーションはその内部でのみ行われるため、不特定多数に情報が公開されているBBSやブログとは異なる密接なコミュニケーションが可能になる。SNSは参加者の同一性を特定しやすいため、コミュニケーション分析の研究対象として注目を集めている。またSNS上では大規模な社会ネットワーク分析手法を適用することで新たな知見が得られる可能性がある。本稿では、SNSの発祥から現在に至るまでの変遷について述べた上で、研究対象としてのSNSの位置づけについて議論し、今後の課題や展望について述べる。
SNSとは
snsは、日常的なコミュニケーションの支援を目的として、コミュニケーションの主体である個人の存在を明示化し、個人間の情報流通を実現するためのシステムであると定義できる。本稿では、このようなコミュニケーションの形態を個人指向コミュニケーションと呼ぶこととする。
SNSの歴史
個人指向コミュニティサイトがSNSと呼ばれるようになったのは、2003年に米国で開発された[Friendster]が最初であるとされている。Friendsterは急速にユーザを獲得し、開設後3ヶ月で100万人に達したことから注目されるようになった。日本でもmixiが普及し、snsの普及は全世界的に進行している。韓国のSNS[CyWorld]は韓国語圏でのサービスながら1300万のユーザを抱えており20代女性の95%が参加している。最近では類似サービスが続々と登場しており、どのサービスSNSであるのかを明確に区別することが難しくなっている。またトピック限定のSNS、地域限定のSNSなど、ユーザの範囲を限定したSNSも数多い。
SNS研究の現状
SNSでは、個々の参加者の振る舞いだけでなく、参加者間のつながりの総体としての大規模ネットワークを観察することができる。この特徴を利用して、工学やコンピュータ科学のみならず、社会学や心理学、物理学のアプローチを用いた研究が進められている。本章では、これらの研究をコミュニケーション分析、社会ネットワーク分析、および情報・知識共有の3つの観点に基づいて分類し、紹介する。
コミュニケーション分析
これまでの研究成果で、SNSを日記、すなわち知人とのコミュニケーションを主に利用するとの回答が80%に上った。また顔写真、実名を公開している参加者ほど新たな他社とのコミュニケーションを求め、非公開であるほど現実の知人関係でのコミュニケーションを求めている傾向が明確になっている。また参加者の国籍あるいは国民性と振る舞いの特性の関連を調査した研究などもある。
社会ネットワーク分析
社会ネットワーク分析は、社会学の中でも、人と人とを結ぶ関係に着目し、関係構造であるネットワークを分析することでコミュニティ全体の特性を明らかにする学問分野である。インターネットではmixiなどで用意に社会ネットワークを得ることができるために急速に研究が発展している。研究によれば
スケールフリー性(ノードとリンクの関係がベキ乗分布を示す)やスモールワールド性(ネットワーク規模に比して任意の2ノード間の距離が短くなるような性質、すなわち知人同士が特に密接に繋がったような状態)がわかってきている。
情報・知識共有
アクセス権限をどう設定するのかが難しい。どの人にどこまで情報を公開していいのか?コミュニティごとに情報のアクセス権を付与すべきかなど様々な問題が発生する。しかし大規模社会ネットワーク分析手法が整備されつつあり、これらを用いることによって実用的なアクセスコントロールが可能になると期待されている。
研究者のSNS
SNSに関する研究は、多大なデータを必要とすることから、実サービスの運営者と連携して進められることが多いが、研究者自らがコミュニティ支援システムを構築し、運用している例もある。Polyphonet Conferenceでは研究者間のつながりを一般のSNSの手法だけではなく、Web全体を情報源としてネットワークを抽出している。
SNSのオープン化とメタデータ
SNSは個人的なコミュニケーションのツールとしてだけではなく、幅広い利用が考えられる(適した人探しなどが考えられる)。用途によっては知人関係を公開することは問題ではない場合もあり、そのような用途に対してオープンなSNSを構築するための基盤が構築されつつある。代表的な例として、知人関係をメタデータとして記述するための
FOAFがある。
SNSの課題・展望
情報の信憑性
→SNSではデマ等が広がりやすく、また個人による過度な情報公開により犯罪が誘発されるといったことも出ている。今後は長期的な視野にたった
情報リテラシーが求められる。
コミュニケーションツールから情報流通の基盤へ→社会ネットワークとコミュニケーションは分離可能であり、コミュニケーションとは異なる社会ネットワークの利用方法が様々な分野で提案されている。広告やマーケティングの分野では、パーソナライゼーションの一環としてSNSの利用が模索されているほか、情報検索や推薦、組織内の人事評価など対象及び利用目的は多岐にわたる。将来的には前述のような認証基盤上に各種サービスが構築され、ユーザが自由に必要な機能を選択するオープンなSNSが普及するものと思われる。今後は実サービスを運用する企業と研究者の密な連帯によって、SNSの可能性を追求することが望ましい。

参考 IPSJ Magazine Vol47 No.11 Nov.2006

0 件のコメント: