2007年6月8日金曜日

Web2.0と集合知

Web2.0と集合知

複数のユーザの意見から作り出されるコンテンツや知識を集合知というが本稿ではWebにおける集合知の現状を概説し、その可能性について述べる。

群集の英知

集団による意思決定は多くの場合において極端な方向に傾くことが指摘されているが、個人の限界を突破するためにはやはり集合知が求められる。集合知が適切に機能している事例に共通する性質として以下の4つを挙げている

  • 多様性
    各参加者がそれぞれに独自の視点を持っていれば、総体として多くの候補解を列挙することができる。探索空間が狭い場合には、その探索空間内に適切な解が存在しない可能性がある
  • 独立性
    各参加者の持つ意見や提案が他の参加者の影響を受けないよう、各参加者の独立性が確保されている必要がある。特に小集団で議論を行う場合には多様性が低いために偏った結論に集約される危険性がある。
  • 分散性
    問題を抽象化せず、各参加者が直接得られる情報に基づいて判断する必要がある。参加者ごとに得られる情報の種類は異なると予想されるが多様性を維持するためにも、各参加者に共通する属性のみで判断すべきでない。
  • 集約性
    上記3点の特性を活かして得られた知識を参加者全体で共有して、比較検討して最終的な結論を導く仕組みが必要である。

このように、集合知の実現には、他の影響を受けない状態でのローカルな知識の生成メカニズムと、それらを集約するメカニズムの両方がひつようである。

WEBナビゲーションと集合知
グーグルのPageRankはハイパーリンク構造を用いてうまい具合に集合知を間接的に利用しているといえる。しかし今日では検索エンジンだけでは解決できない問題、例えばブログにおいては更新直後の情報の発見が重要となるが、新しいものほど被リンクが少ないことや、リンク構造分析の計算コストの問題によって、そういったページの評価が上がりにくいなどがある。

人力検索とソーシャルタギング

このような要求に対応すべく、集合知を活かしたナビゲーション実現システムが次々と生まれている。これらはリンク構造分析による評価に見られるようなコンテンツの書き手同士の相互評価ではなく、読み手による評価を利用するところに特徴がある。参加者が質問し、別の参加者がそれに答える、いわゆる「人力検索」と呼ばれるサービスはその一例である。これは質問者は、自然文で知りたい事柄を提示し、回答者は該当すると思われるサイトのリンクを示しながら回答する。優れた回答には得点をつけるなど、継続へのインセンティブがあるためあらゆる分野の質問に答えられるだけの参加者を獲得し、実用的なサービスとして定着しつつある。またソーシャルブックマークといってブックマークを共有し、ブックマークが多いページを優先して画面に表示しようとすることも実用化されている。また集合知を利用したナビゲーションサービスに特有の機能としてソーシャルタギングというものがある。youtubeなどで見られる自由にユーザが付けられる言語符号のことである。

フォークソノミー

ソーシャルタギングによって得られたタグの集合は、フォークソノミーと呼ばれる。しかしソーシャルタギングによって作られたフォークソノミーはそれぞれのタグの間に関連性がなく、このままではタクソノミーの代替物として他の目的のために再利用することが極めて難しい、そこで、単語間に関係を導入するために、タギングが行われる際に複数のタグを入力可能であることを利用して、タグの共起関係から統計的に関係を計算する手法が使われる。さらに、タグの分布の包含関係から上位ー下位関係を導くなどより精度の高い体系の自動構築は重要な研究トピックの1つになりつつある。多くの課題があるが多くの参加者が主体的にメタデータを付加するような状況は過去に例を見ない。この状況を活用して、参加者にとってより有用なシステムを構築することが求められる。

コミュニティと集合知

体系化された知識をWebに集積する試みの中で、最も成功したものがWikipedia、またLinuxをはじめとするオープンソースソフトウェアの開発は、インターネット上で最も成功した協調型プロジェクトの1つである。これらはボランティアによる運営にも関わらず企業で開発されるプロジェクトにまったく引けを取らないレベルまで達しているといえる。

予測市場

はてなアイデアのように仮想的な市場の仕組を使って、ユーザーから要望や不具合報告を効率的に得ることを目的としたサービスなどがあり、要望が低いものは自然淘汰されていき、要望が強いものが残っていく。これにより優良な意見を発掘しようとするのである。

総表現社会と集合知

ウェブ進化論ではWebの進歩によって誰もが表現の機会を与えられる、「総表現社会」の実現可能性について議論されている。すでに、ブログやSNSを利用した表現活動、コミュニケーション活動は本格的な普及の段階にあり、この傾向は今後も続くものと思われる。表現形式についても多様化が進み、テキストだけではなく、画像、音声、映像を用いた表現を容易に作成、公開することが可能になった。その中で、個々の表現活動が関連し合い、あたかも集団で大規模な創作活動が行われているように見える現象が生まれている。また、このような現象を明確に意識した集合的表現の活動や、それらを支援するシステムが作られている。NOTA,Willustrator,CreativeCommonなど多くの試みがある。

参加のアーキテクチャ

本稿では、Web上に存在する集合知の事例をいくつか取り上げた、集合知には自己組織的に生み出されるものもあれば、参加者間の共同作業によって得られるものもあり、一律に定義することはできない。これらに共通するのは「参加のアーキテクチャ」が適切に設計され、多くの参加者を巻き込んだ結果である、という1点である。参加のアーキテクチャを設計するにあたっては、その目的に応じて参加者の役割やコミュニケーションの方法を決める必要がある。参加者の独立性をどのように確保するかや、権限管理の有無など、検討すべき項目は多い、最終的には、参加者をどの程度信頼するかという、人間そのものに対する洞察も必要となる、信頼はその定義上投機的なものであるため、何らかのシステムによって自動的に解決するものではない、性善説にのみ依拠するのではなく、コミュニティに貢献することが最もコストの低い状態になるようにシステムおよび精度の設計を行うことが重要である。様々な課題はあるが、集合知は適材適所で大きな力を発揮する。最近では、集合知を積極的に利用として問題解決を図るという意味の「クラウドソーシング」という言葉も生まれており、今後様々な応用が出てくることが期待される。

参考 IPSJ Magazine Vol47 No.11 Nov.2006

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